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生活防災による 共助の関係・基盤づくり

J:COM安⼼安全チーム、千葉・茨城担当の塩見です。

今回は、千葉県松戸市・岩瀬自治会の「生活防災による  共助の関係・基盤づくり」をご紹介します。
 


千葉県松戸市岩瀬自治会とは

今回ご紹介する松戸市岩瀬自治会は、JR常磐線・新京成線の松戸駅東口から徒歩7分、630世帯・約1,500人の自治会です。
 
岩瀬自治会の防災対策の特徴は、日常生活での住民の繋がりを、非日常の災害対策に繋げようとしている事。
自治会のホームページを参照すると「生き生きした暮らしといった 日常的な場面…防犯・防災といった 非日常的な場面で、このような関係が心強い支えになるでしょう。そこで『日頃のお付き合いを深め』ながら、緊急時(首都直下型地震)に備え『防災意識を高める』ことを目的に活動を行っています」と記載されています。 

岩瀬自治会ホームページ 
※画像をクリックするとホームページにジャンプします


様々な被害想定が錯綜する岩瀬自治会

車で松戸市内を移動する方ならご存じかと思いますが、松戸駅、市役所、聖徳大学etc…松戸駅東口周辺の主要なランドマークに向かう時には、必ず岩瀬自治会の傍を通ります。
しかし、今回改めて取材で岩瀬自治会にお邪魔してみると、災害に対するあらゆる危険が想定される地域だと、認識を新たにしました。

その主な原因は「地理的な要因」。
急斜面の坂道を登った上に「台地」と、水田から住宅街となった「平地」があり、そこに戸建や集合住宅が密集していることです。

下の図は、自治会が行ったアンケートで、住民の方が感じた危険個所を地図に落とし込んだものです。

図は岩瀬地区防災住民アンケートより抜粋 
※画像をクリックするとアンケートのPDFが開きます

「東日本大震災の時、地盤沈下があった」、「大雨の時、家屋の浸水があった」、「土砂崩れの危険を感じる…実際に家屋が流された」、「大雨の際、水が集中し、異常な水流で歩けない」など、想定や実際に発生した事など、様々な危機意識が住民の皆さんにあることが分かります。

備えるだけの災害対策から、生活防災への転換

岩瀬自治会は、駅から近いという地の利から新住民の流入も多く、幅広い年代の方が暮らしています。
ただ、年々地域イベントや防災訓練の参加は減少傾向…催しを運営する自治会員も、お馴染みのメンバーになっていました。
このため役員の皆さんは「たまたま同じ地域で生活しているだけ」、「災害発生時に街全体での共助が発揮できない」という大きな課題を感じていました。
 
 しかし、街全体=コミュニティ単位で「共助」が発揮されるには、親しい数人の単位ではなく、日ごろから住民が顔見知りで、付き合いがあることが重要なポイント。
このため、自治会活動に「住民が参加しやすく、様々な世代で楽しめるものにするか」という事を課題解決策と定め、対策に取り組もうと決意しましたが、これが大規模で多方面からのアプローチが必要となる壮大な「第一歩」となりました。
 
 

生活防災の実現のため岩瀬自治会が見直した事

岩瀬自治会が、コミュニティ形成のために取り組んだ事例を上げます。
 
①自治会の情報発信と広報活動(多世代に伝わる伝達ツールをフル活用)
●ホームページのリニューアル
●自治会Facebook開設
●広報誌「岩瀬だより」の内容刷新
●自治会掲示版の活用見直し
 
②自治会館の活用促進(人が常に集う自治会館の運営)
●自治会館「いわぽんホール」のリノベーションと活性化策
 (利用スケジュールのホームページ掲載etc)
●「いわせちゃや」の開設
 (毎週水曜日・だれでも来て良いコミュニティサロン開設)
●「いわぽんシアター」の映画観賞会
 (観賞会と地域活動報告会をミックス)
●「健康麻雀クラブ」、「グラウンドゴルフクラブ」
 (毎週火曜日開催・通所型元気応援クラブとして市に登録)
 
③主催事業・イベント企画見直し(運営にも参加したくなるイベント転換)
●岩瀬さくらまつり
 (お祭りの一部に、防災展示や防災に関する周知企画の開催)
●いわせ文化祭
 (SNSなどの広報活動を通して、新規参加者を募る)
●焼き芋&防災訓練
 (美味しい防災訓練)
●「岩瀬ハ―ブガーデン」「岩瀬坂いわぽんガーデン」などを中心とした
  花いっぱい活動(園芸専門家と育む庭づくり)
 
上記は一例ですが、取材でメモを取る手が追い付かなくなるくらい、次から次へと取り組み事例が出てきます。
「自治会」といっても、住民には多様な世代がいて、情報を受け取るツールも様々。「行事に参加」といっても、出演するのか、運営したいのか、遊びたいのか、見たいのか、参加する側のニーズも多様になっていること。
これらを役員の方が認識していたため、取り組み事案を少しずつ、またある時は大胆に見直していきましたが、それに対応した役員の皆さんの実行力には驚かされます。


コミュニティの素地はできた!いよいよ、防災計画へ

共助を目指したコミュニティの醸成が実を結び、イベントや自治会館のサークル活動に関わる方、新たな住民の顔が回を重ねるごとに増えました。
そして、いよいよ「防災計画の見直し」が始まります。 
 
まずは、2020年に実施した地域の危険個所の見直し。
特に大きな見直しになったのは、これまで避難所としていた自治会館「いわぽんホール」を避難所から外すことでした。
理由は、土砂崩れの特別警戒区域に自治会館があったからです。
 

図は岩瀬地区住民アンケート調査から抜粋 キャラクターマークが自治会館の場所
※画像をクリックするとアンケート結果のPDFが開きます


近年、出水災害や大雨、線状降水帯の影響もあり、土砂崩れの危険性は年々高まっています。
長年慣れ親しんだ自治会館を避難所から外すのは厳しい選択でしたが、昨今の状況では当然の事。では、代替えの避難所へ…となった時、大きな課題が出てきました。
 
岩瀬自治会の指定避難場所は、松戸市相模台にある小学校と中学校。
地名に「台」とあるように、台地の上に学校があり、たどり着くには、急勾配で細い坂道を登っていかなければなりません。

避難場所に向かう経路 2024年7月撮影

 
当然、子供や高齢者が避難するのは困難ですし、車いすや負傷者の搬送なども物理的に不可能。
もちろん大量に降った雨が、この坂道を流れ下りてくる場合などは、避難所に移動すること自体が命の危険に繋がります。
 
また、住民の皆さんにアンケートを取ったところ「避難をした経験がない人」が90%以上でした。
 
避難経験がない人に、避難の判断や避難時のスキルを求めるのは困難。
ましてや他の人を助けながらというのは危険すぎることもあり、自治会では、マンション居住者や高齢者を中心とした「在宅避難」者も多い点を考慮した「岩瀬自治会地区防災計画」を策定します。
 
冊子として配布されている「防災計画」には、様々な要項が盛り込まれていますが、計画の軸には、冒頭で紹介した「岩瀬自治会の地理的要件」に始まり、「共助」を育むための自治会活動の見直しがあり、平素から住まう人たちのライフスタイルに則した防災計画です。
 
そして、自治会のHPの資料には、次の文章が掲載されています。
 
「来るべき首都直下型大震災に備えた絆の醸成 
 ▶日頃の関わり合いから、生活防災を」
「「老・壮・青・幼」4世代間交流
 ▶関わるきっかけづくり、共通体験」

と記されていて、「日常生活と防災が密接な関係である」ということを強く認識されていることが感じられます。
 

岩瀬自治会の紹介資料より抜粋
※画像をクリックすると自治会紹介資料のPDFが開きます

終わりに

ここまで読んでいただき「岩瀬自治会地区防災計画」に興味を持たれた方がいれば幸いです。
「岩瀬自治会地区防災計画」の冊子は自治会員のみに配布されています。
外部の方は、自治会館「いわぽんホール」で閲覧することができます。 

岩瀬自治会の方に聞いたところ、「せっかく冊子を見に来るのであれば、毎週水曜日の10時~14時まで、誰でも気軽に談話できるサロン”いわせちゃや” を、いわぽんホール(岩瀬自治会集会所)2階で開催しているので、その時、お越しください。子どもの居場所として活動しているサクラパルティさん(松戸駅西口)で焙煎しているドリップコーヒーを提供、また、地域の商店や福祉事業所と連携した、商品の販売も月1回行っています」とのこと。

こうした地域交流による、サロン運営も、自治会の枠にとらわれない交流のアイデアでした。

取材協⼒︓松戸市 岩瀬自治会