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要配慮者の避難

J:COM安心安全チーム 、東京担当の小矢島です。

最近、災害はいつどこで発生するか分からない、と身に染みて感じています。会社・学校・自宅などで地震が起きた場合を想定して、それぞれの場所で周囲と助け合える関係を構築しておくことが大切だと思います。

町会などでは地域に住む要配慮者の支援について考えていくことも必要です。要配慮者とは、災害の危険から身を守ることに何らかの困難を抱え、支援が必要になる人たちをいいます。

NPO支援技術開発機構 研究顧問 北村 弥生さん

国立障害者リハビリテーションセンター研究所で長年にわたり「障害者の災害準備の研究」に携わってきた、NPO支援技術開発機構 研究顧問、長野保健医療大学 特任教授、医学博士・防災士で地元豊島区の「南池袋二三四町会防災部長」を務めている北村 弥生さんにお話を伺いました。


自分事として捉える

北村さんに、まず「防災について皆さんに意識してもらいたいこと」を伺うと「危機感を持って準備をすること」と話されました。
確かに、防災の知識は「他人事」ではなく「自分事」化しなくては身につきませんよね。

町会の防災訓練の様子(複数の搬送方法のデモンストレーション 令和4年6月) 
※写真提供:北村 弥生さん

要配慮者支援について北村さんが自身の町会で行った取り組みは、支援を必要とする人たちと支援をする人たちとでLINEグループを作り、リアルタイムで情報交換ができるように勧めたことです。

どうしてLINEグループを作ったのか

北村さんは、防災部長として、区から町会に送られてきた災害時要配慮者70人を対象にアンケートを実施。
41人が回答し、そのうち「支援が必要」等、協力を要すると回答した人はわずか約3割だったといいます。
要配慮者の多くは、支援を必要とする場面の想像がつかず、「自分は大丈夫」と思ってしまうそうです。

町会の交流イベントの様子(令和5年9月)
※写真提供:北村 弥生さん

こういった状況を改善していくためには、支援をする人も相手の生活状況を知り、どのような場面で支援が必要となるか想像しておく必要があるので、普段から連絡が取り合えるようLINEグループを作ったのだといいます。

相手の状況がわかってこその支援

もし、要配慮者と避難所へ行ったとしても、どこに配置をしてもらうか、車いすからベッドへの移動の仕方など、確認をしておかないと支援へつなげることは難しいとのこと。そのために必要となってくるのが「訓練」です。

例えば、避難所の入口に段差があることがあります。
これは、車いす利用者と支援者が実際にその場所へ行き訓練をしてみないと分かりづらく、また、支援をしてもらう際に何をしてもらいたいのか伝えることができません。
そのため、訓練を通して知るということが大切で意味のあるものになってくるんですね。

町会の防災訓練の様子(安価な布担架で移動困難者を搬送する 令和4年6月) 
※写真提供:北村 弥生さん

二三四町会では要配慮者との接点を増やすために、令和5年度には町会のお祭りで、70歳以上の人が使えるクーポン券の配布などをしたそうです。
こういう場に来ていただくことで顔見知りとなり次のステップへつなげていくことができるといいます。

要配慮者の避難に関する研究

北村さんが防災避難の研究を始めて21年。
北海道の浦河町にある「浦河べてるの家」では、19年間津波避難訓練を実施しています。
ここは精神障がい者の方の地域活動拠点で、2003年の十勝沖地震の際に、避難時の課題を意識したことがきっかけで防災に関する勉強会を始めました。

「浦河べてるの家」での訓練様子
写真提供:北村 弥生さん

今年2024年に行った訓練は「浦河沖を震源とするマグニチュード9の地震が発生し、大津波警報が発表された」という想定で実施。
避難目標は、研究者が過去の被害に関する文献調査に基づいて推奨した「地震発生から4分で12mの津波を避けられる高所に避難する」にしました。

津波は素早く逃げることが必要

今回の訓練には、近隣の企業や住民なども参加。
まずは机の下に隠れて身を守り、その後避難ルートを確認しながら、約300m先にある高台の避難所まで避難しました。
「べてるの家」では年4回避難訓練を行っているため、参加者も落ち着いた避難行動が出来たといいます。
私自身も話を聞いていて、やはり訓練は回を重ね習熟することが最も重要なのだと改めて感じました。

高台の場所に避難する訓練(令和5年7月)の様子
※写真提供:北村 弥生さん


防災対策で大切なことは?

最も大切なことは、周りの人・地域と協力しあえる体制を作ることだといいます。
「べてるの家」では、避難経路にあるホテル従業員に訓練に参加をしてもらったり、自治会の訓練と合同で行ったりなど、「訓練」を介した地域との連携も進めているそうです。

浦河べてるの家のメンバーと研究チームが共同で作成したマニュアル

今回、北村さんからお話を伺い、「顔の見える関係を作ることが自然と防災につながる」と感じました。まずは地域のイベントに参加し知り合いを作ることが防災への第一歩につながるのかもしれませんね。

取材協力:北村 弥生さん
東京大学医学部保健学科、同医学系大学院(基礎医学)修了後、ハーバード大学比較動物学博物館研究員として、古生物学者と原始的な哺乳類の咀嚼運動の研究を行う。2003年から「障害者が読める災害準備教材」の開発を始め、現在は主に、「地域防災訓練への障害者の参加方法」「障害者の個人避難計画を作るグループワーク」の開発を行っている。

■参考文献
北村弥生さんらが参加した研究論文
「精神障害者による津波避難訓練の効果と地域住民との関係」
※参照 国立障害者リハビリテーションセンター 研究所 紀要

http://www.rehab.go.jp/application/files/7415/2567/5701/34-04.pdf


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