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災害研究のプロが市民に防災講座(前半・座学編)

J:COM安心安全チーム、埼玉担当の和田です。

昨年11月30日(土)、埼玉大学としては初となる地域住民向けの防災ワークショップを取材しました。タイトルは「地域の災害と防災を考える -桜区栄和を例として-」。

参加者は埼玉大学があるさいたま市桜区の自主防災会や自治会から、約30名の住民。さいたま市防災アドバイザーの制服を身につけている方もいらっしゃいます。桜区長も視察に訪れ、地域の関心を集めています。

ワークショップを主催するのは、埼玉大学の「社会変革研究センター レジリエント社会研究部門」。2024年4月に発足し、研究で得た知識を市民に伝える活動を進めています。
今回は、地域住民に向けた情報発信活動の第一歩。ワークショップは2部構成で行われ、フィールドワークでまちを観察するための「視点」を、前半の座学で学びます。


座学パートで最初に教鞭を取ったのは、断層近傍の地震動の解析を専門とする谷山尚准教授。桜区で想定される地震の規模と、地震のメカニズムを紐解きます。

さいたま市で「6強」は有り得る?

出典 さいたま市被害想定調査報告書

さいたま市で想定している「さいたま市直下地震」「関東平野北西縁断層帯地震」「東京湾北部地震」のうち、「関東平野北西縁断層帯」は群馬の高崎あたりから埼玉の熊谷を通り伊奈まで伸びる活断層で起こる地震ですが…近年、上尾から川口の区間も活断層ではないか?と考えられるようになっています。つまり、さいたま市の真下が震源となる可能性があるのです。この地震が起きると、桜区の場合は多くの場所で震度6強になるかもしれません。皆さんは、「ひょっとすると震度6強」はあり得るな、という前提で備えを進める必要があります。 

谷川准教授

「埼玉は災害が少ないから大丈夫」と仰る方も、少なくないはずです。かくいう記者もその一人ですが、まさか震度6強がこのさいたま市で起こるかもしれないとは、ちょっとショックですが…災害研究のプロが集う埼玉大学ならではの情報です。ふむふむ。

地震のとき、栄和では住宅被害に注意が必要

どんな被害が想定できるかというと、桜区、とくに栄和は家屋が密集した地域で道が狭く入り組んでいるため、災害時は道がふさがれることを考慮する必要があります。震度6強だと1981年以前の旧耐震基準に沿って建てられた家は被害を受け易いのですが、その家がどのくらいあるか、さいたま市の防災マップを見るだけでわかります。赤い四角形の中には半壊以上の被害を受ける家が5軒以上あることを示しています。その土地のすべてが危ない、という意味ではありませんのでご注意ください。

谷川准教授
モニターに映し出された「建物被害分布図(さいたま市直下地震)

上のリンクをクリックして、マップを見てみましょう。くまなく、赤から青まで様々な色のメッシュで区切られていますよね。このマップを見て記者が思ったのは「このマップを見れば、火災や地震の際の避難ルートが決められる」ということ。
赤いエリアをなるべく通らず安全に避難所へ向かうことのできる道を事前に探しておけば、イザというときの役に立ちそうです。ふむふむ。

続いて登壇したのは地質学を専門とする長田昌彦教授。
桜区栄和の土地形状と水害の関係を、地図で紐解いてゆきます。



水害に備え、栄和の高低差を見える化しよう

モニターに映し出された「国土地理院地図Vector 色別標高図

長田先生がモニターに示したのは、国土地理院が公開している地図。
埼玉大学がある栄和周辺の地図が標高により色分けされています。図の左下は青が多く、つまり標高が低い荒川沿いの土地で、図の右上ほど赤、つまり標高が高い大宮台地です。
荒川が氾濫するような大規模水害では台地の方に逃げてゆくことになりますが、もうすこし小規模な水害では自宅にとどまるケースの方が多いはずです。そんな時、土地の出水特性をどのように把握すればいいのでしょうか?先生の話を聞いてみましょう。

栄和の全てが真っ平らかというとそうではないです。この色別標高図を見てください。埼玉大学のグランドは濃い青で、かつて氾濫平野と呼ばれる低い土地でした。当然水が溜まりやすいところです。右の方に赤い輪が見えますか?これは、この辺りにかつて川が流れていた名残で、川岸にたまった土砂がつくる「自然堤防」により、少しだけ盛り上がっているところです。

長田教授
出典 国土地理院地図 (記者が加工)
出典 さいたま市浸水履歴マップ(記者が加工)

同じエリアをさいたま市の浸水履歴マップで見ると、かつて氾濫平野だった埼玉大学のグランドの右端に浸水履歴のマークがついています。(緑の矢印で示した箇所)、これはわかりやすい結果です。その右の方を見てみましょう。少しだけ高い土地である赤い輪の右側に浸水履歴が集中しているのがわかりますか?(赤い矢印で示した箇所)「なぜここに浸水履歴が多いのかな?」と考えながら、後半のフィールドワークでは「ブラタモリ」のような気分で、微妙な高低差を見にいきましょう。

長田教授

いかがでしょうか?前半の座学では、このようにして土地の性質を把握するための知の技法を学びました。次に控えるフィールドワークでは自分の目と足で検証していきます。記事は「後半 フィールドワーク編」に続きます。次回の更新をご期待ください。

取材協力 埼玉大学 社会変革研究センター レジリエント社会研究部門

参考リンク 地理院地図 Vector (+自分で作る色別標高図)

参考リンク 桜区浸水履歴マップ/さいたま市