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「医療的ケア児支援法」でどうかわった?

J:COM安心安全チーム、千葉担当の小矢島です。

去年12月15日に浦安市のJ:COM浦安音楽ホールで「医療的ケア児支援法」セミナーが開催されました。当日の様子について、パルレの代表・​雑賀貴子さんが記事を書いてくださいましたので下記にてご紹介します。

医療的ケアについて考えるきっかけを

パルレは、「医療的ケア」の必要な障がい者やその家族・支援者を主とし、すべての人が地域で「ともに学び」、「ともに暮らし」、自分らしく生きることを目指しています。活動を通じて皆が考えを深め、自ら一歩を踏み出せるようなきっかけとなる環境を作っています。

医療的ケア児とは

「日常生活及び、社会生活を営むために恒常的に医療的ケア(人工呼吸器による呼吸管理、喀痰吸引その他の医療行為)を受けることが不可欠である児童(18歳以上の高校生等を含む)」を指します。

医療的ケア児支援法が施行されて

「医療的ケア児及びその家族に対する支援に関する法律」略して「医療的ケア児支援法」は令和3年に施行されました。医療的ケア児を社会全体で支援し、国・地方自治体の責務を明らかにしました。

施行されて3年…当事者や家族が抱えている課題などは多くあります。そこでセミナーでは、就園・就学の問題、医療的ケアを担う人や防災の観点について、様々な立場の方からお話いただきました。

様々な立場の方が登壇

開会の挨拶で、自立生活センターSTEPえどがわの理事長である今村 登さんが話したのは、様々な障がいのある方を想定した手話通訳やPC文字通訳による情報保障の必要性についてです。

また当事者家族の三村晋也さんは、お子さんが生まれ、医療的ケア児の預け先もなく、ご両親とも小学校の先生を離職しました。そして、現在フリースクールを経営しており、それに至った経緯などを説明しました。

当事者家族の三村晋也さん 写真提供:パルレ

「なぜ重症心身障がいと多くの医療的ケアが必要な子どもを地域の学校に通わせるのか?」という疑問に、「主な理由は、そうしなければ親が働けないことと、息子さんの将来のためには地域の学校の方がいいと考えたから」と当事者家族として親からの想いや考えを伝えていました。

そして「特別支援学校に通った場合は、地域の人たちがお子さんと関わる機会は極端に減ってしまう。卒業後は地域で生活するので、地域の人たちに理解してもらうことが一番大事」という想いも心に響きました。

千葉県は「千葉県医療的ケア児等支援センターぽらりす」を設置

「医療的ケア児支援法」により、各都道府県には医療的ケア児及び、その家族の相談や情報の提供、助言その他の支援を行うため支援センターが設置されています。

三村さんの支援にあたった、ぽらりすの医療的ケア児等コーディネーター 佐藤郁夫さんは、センターの実践と医療的ケア児等コーディネーターとして三村さんとの関わりなどをお話しいただきました。

ぽらりすの医療的ケア児等コーディネーター 佐藤郁夫さん 
写真提供:パルレ

佐藤さんいわく、「医療的ケアが必要でも学区の学校に入学したい、付き添いや通学の問題などの相談が多く寄せられる。教育ニーズに寄り添い、ご本人の状態をしっかり把握し、入学後の生活をイメージしながら支援を進めていくことを大切にしている」とのこと。

そしてキーワードは、「合意形成と連携」。
言語化しにくい親御さんのニーズを汲み取り、学校の現場を見学させてもらうなどしてコーディネーターが学校を知る事も大切とのことです。

医療的ケアの担い手不足の問題

次に、医療的ケアの担い手不足の問題として喀痰吸引制度について、自立生活センターSTEPえどがわサービス提供責任者の市川裕美さんがお話しをしました。

医療的ケア児の家族を社会で支援するためには、その担い手が家族以外に必要。看護師はもちろん、介護福祉士(ヘルパー)も一定の訓練を受けることにより可能になりますが、現状なかなか増えない課題があるそうです。

自立生活センターSTEPえどがわサービス提供責任者 市川裕美さん
写真提供:パルレ

その要因として考えられるのは、「費用」や「膨大な提出書類」そして、「心理的な不安」などが挙げられ、介護福祉士は年間約6万人が従事者として認定されているものの、実施研修を受けないまま仮免許の状態で、医療的ケアの担い手が増えていない問題があるとのことでした。

医療的ケア児は就園にも課題が

千葉市若葉区の社会福祉法人千葉ベタニヤホーム 旭ヶ丘保育園 保育士の高村千春さんは、園の取り組みとして、保育士の先生方が医療的ケアの手技を取得し、全体でサポートした事例を紹介しました。

社会福祉法人千葉ベタニヤホーム 旭ヶ丘保育園 保育士 高村千春さん
写真提供:パルレ

開園当初は保育士をはじめ、看護師も保育園で医療的ケア児を預かることへ不安も大きかったといいます。そのために「『わからない』からくる不安をなくすため、職員で勉強会を行ったり、保育士と看護師との意見のすり合わせなどを日々行い、一つずつ解決していくようにした」とのこと。

そして、日々の話し合いのおかげで、少しずつ医療的ケア児の子どもたちと一緒にできることは何かを考えられるようになり、毎日の保育活動や行事も健常児と一緒にどうしたら参加できるのか、を常に念頭に保育を行えたのも、保育士が吸引を担当できたことの成果だと感じたそうです。

それでもなかなか医療的ケア児の受け入れ先は増えていないのが現状。民間保育園も安全面の不安や看護師不在などで受け入れには消極的。それでも少しでも受け入れ先が増え、保育園に通えるようにしたいという思いがあり、現在は令和7年4月から旭ヶ丘保育園で医療的ケア児の受け入れができるように準備をしているそうです。

防災については

ぽらりす佐藤さんは医療的ケア児の多くは人工呼吸器やたん吸引器など電源が必要な医療機器や生活用具を使用しており、電源の喪失が命に関わるため蓄電池や発電機の備えについて各自治体の支援をお願いしたいとのこと。

STEPえどがわ市川さんは、災害時に備えて集団避難訓練を実施した様子などを伝え、普段外出がままならなかった方が、避難訓練を通して旅行にも行くようになるなどよい変化があったと事例を紹介しました。

今回は、オンライン合わせて約60名が参加し、当事者や家族、福祉や行政など様々な立場の方々と意見交換を行いました。

取材協力:パルレ