地形は災害の履歴書 後日談
J:COM安心安全チーム、宮城県仙台市 担当の野元です。
以前、放送した仙台市西多賀地区のまち歩きの後日談。
放送に盛り込めなかったお話です。
↓ 以前放送したものはコチラです。
まち歩きで使用された地図のほかにもう一つの地形分類図があります。
それが、アナグリフ3D地形画像
「アナグリフ3D地形画像」とは
ある世代の方なら映画館で立体的に見えるアニメを観たことがあるのではないかと思います。それをイメージしていただけると分かるかと思いますが、画像が立体的に視覚化されることでよりリアルに地形の起伏がわかるようになっています。
番組で紹介しましたが、地形分類図でその場所や地域にある山や谷が俯瞰の視点でかつ立体的に見やすくなり、大雨の時に水の流れとなりそうな箇所や過去に起きた土砂崩れの痕跡がより分かりやすくなります。
市や町規模のこうした大まかな地形分類図はあったそうなのですが、番組でご紹介した東北福祉大学 准教授 水本匡起さんは、土砂災害のリスクを自分ごととしてとらえてもらえるように、さらに詳しい地形分類図を作成して地域にまで落とし込み、まち歩きに活用しているそうです。
番組でご紹介した、地形から災害リスクを発見するまち歩きを行っている仙台市の西多賀地区以外にも、宮城県内外様々な地域で行っているそうです。
地形のスペシャリストだからこそ伝える
水本さんは、変動地形学という活断層や地形に関する研究者で、何万年、何百年という規模で変わる地形の成り立ちを研究するスペシャリスト。
「糸魚川-静岡構造断層帯」や「フォッサマグナ」など、小学校や中学校で聞いたことがある方もいるのではないかと思いますが、2016年に認定された「身延断層」を発見した研究者でもあります。
この身延断層は、国が「地震への警戒が主要な活断層」としても認めています。
防災士の講習会で講師も務めていて、所属する東北福祉大学をはじめ、東北地方の各県や神奈川県など様々な地域で地形に関する防災の知識を広めています。
まち歩きをしながらカスタマイズ 気分は「ブラ〇モリ」
どうしてもハザードマップってどこに避難所があって、一時避難場所の公園がどこにあってとなりがちですが…。
水本さんが監修するまち歩きでは、地形分類図を用いて、住んでいる地域の実際の場所を見て・歩いて実感してもらうことに重点を置いています。
太古の昔、恐竜やマンモスの時代に起きた地震や、縄文時代や弥生時代、戦国時代に起きた大雨の痕跡が地形として記憶が残っていると思うと自然のすごさを実感でき、発見があります。
地形の成り立ちから太古の歴史を発見し、ひも解きながら某有名司会者の方が散策する「ブラ〇モリ」を地域に特化してやっているような感じですね。
楽しさは重要
「知って驚くというか知る喜びや楽しみを味わうというか…参加者のそうした知的探求心を大切にしながらまち歩きをしています」と水本さんは話します。
どうしても防災となると眉間にシワ寄せて…そうなると参加していても疲れてしまいますし、長続きしませんね。
「参加者同士の会話も楽しんでほしい」とも話しています。
それは、なぜ…?
実際、取材したときも、水本ゼミの学生たちと参加者が楽しそうに会話をしながら歩いていました。
「この地域は昔、こんなことがあった」とか「この辺りは大雨が降ると水浸しになった」とか…。
何百年、何千年前の災害の痕跡を地形で知り、数十年前の災害を地域の人たちからの伝承で知る。
災害の記憶をもとに 次に起こりそうな災害に備える。
それが、防災・減災への行動となります。こうした活動で災害リスクに関する多くの情報を次の世代へとつなげていく狙いもあるそうです。
「地形が大きく動くときは災害が起きた時」
水本さんはそう話します。やはり活断層の地震が地形を大きく変えるかと思いましたが、「活断層の地震は何百年、何千年規模で1度です。頻度が高いのは大雨による地形の変化なんですよ」
言われてみれば、豪雨災害が起きるたびに聞く「何百年に一度の大雨」が毎年のように起きています。
山に大雨が降ると、谷間が削られ、川が氾濫し、大きく土地を削り、川の流れが変わる。
川の流れで運ばれた土砂が扇状地を作り…小学校の理科でも習ったことがありますね。
こうした地形の変化から災害リスクを知ることが大切になります。
太古の昔に起きた土砂崩れや川の氾濫、活断層型の地震といった災害の痕跡を地形を見ることで知ることができる…ということで「地形は災害の履歴書」。これは、番組でもご紹介しました。
スペシャリストがいないと無理?
地形を知るまち歩きですが水本さんのような地形のスペシャリストがいないと出来ないんじゃないの?と思う方もいるかもしれませんが…そうではありません。
前述にも記載しましたが小学生で習う地形の成り立ちを知っていれば大丈夫!
さすがに「アナグリフ3D地図」を作るのは難しいですが、国土地理院のホームページに過去の航空写真がアーカイブとして見られるようになっていて、現在の地形では見つけにくくなった災害リスクを見つけることも可能となるそうです。
防災士の講師だからこそ伝えたいこと…「自分の命を守る」
番組の取材中、この「まち歩き」を行う前の座学で水本さんが話した印象に残った話があります。
「ローリングストックといった備蓄の用意や避難所の場所確認も大切です。
しかし、さらに重要なことは、災害が起きた時に自分の命が助かること」
「災害が起きて命を落としたら、いくら備蓄品を用意していても、避難所へ行く経路を確認していても命を落とせば何の役にもたちません。まず、命を守る用意をしてください」
今住んでいる場所にどんな危険が潜んでいるのか。災害が起きそうな時、どこへどう逃げるのか…。
災害が起きた時に自分の命を守る準備。ご自身でも改めて考えてみてはいかがでしょうか。
取材協力
東北福祉大学 水本 匡起 准教授
東北福祉大学 水本匡起ゼミ学生のみなさん
西多賀市民センター