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3.11で被災した子どもたちを「あそび」で支援

J:COM安心安全チーム 、東京担当の山口です。

みなさん、現在配信中の「こちらJ:COM安心安全課~被災した子どもたちに『遊び』を!~」ご覧いただけたでしょうか?

この動画の中で紹介しきれなかった内容を取材ノートでお伝えします。

「おもちゃ作り×防災」のきっかけ

「おもちゃ工房TSUNAGU」の岩穴口康次さんが、「おもちゃ作りと防災」を結び付けて考えるようになったきっかけは、岩穴口さんが所属していた「認定NPO法人 芸術と遊び創造協会」(旧日本グッド・トイ委員会)が東日本大震災の時に行った「あそび支援隊」という活動だそうです。

これは、被災地の避難所におもちゃを届け、ボランティアを派遣して子どもたちと一緒に遊ぶことで、子どもたちの心のケアを行う活動です。

「あそび支援隊」について、当時のお話を伺いに「芸術と遊び創造協会」が運営する「東京おもちゃ美術館」をたずねました。

新宿区四谷にある「東京おもちゃ美術館」

小学校の旧校舎を活用した東京おもちゃ美術館は、赤ちゃんにも安心な木育おもちゃから、大人も楽しめる世界のゲームまで幅広い年代の方に向けた交流と体験型のミュージアム
日本の木のおもちゃや海外のデザイン性の高いおもちゃなどを、実際に手にとって楽しむことができます。

早速、「芸術と遊び創造協会」の事務局長で、「東京おもちゃ美術館」副館長の馬場清さんにお話を伺いました。

「あそび支援隊」の活動を始めたきっかけは?

「東京おもちゃ美術館」の多田千尋館長は、岩手県陸前高田市の社会福祉協議会と毎年のように交流があり、また馬場さんは避難所になっていた宮城県気仙沼市のお寺と個人的につながりがあり、それぞれ連絡を取り合っていました。その中で、直接被災地の状況を聞くことができ、何か支援できないかと考えていたそうです。

「瓦礫を片付けるとかの作業ももちろんできないわけじゃないんですけれど、私たちなりの強みといったら『おもちゃ』とか『遊び』なので、 そういう形で支援に行くことはどうでしょうか?と提案したところ、ぜひ来てくださいと言って頂けました。」

震災当時のことを語る馬場さん

まず始めたのはおもちゃ集め!

震災発生から、わずか1週間ほどで活動をスタート。

「当時、国内そして海外のおもちゃメーカー100社以上と繋がりがありました。被災地に支援に行くから、1個でも2個でもいいのでおもちゃを寄贈してくれませんか?と電話をかけ続けました」

すると多くの賛同を得て、最終的に集まったおもちゃはなんと1万点を超えました。中でも馬場さんが印象的だったと話すのは…

「世界的に有名なぬいぐるみ“テディベア”のメーカー『シュタイフ社』が、テディベアを約200体、すぐに送ってくださったんですよ。実際、テディベアに癒された被災者はたくさんいました」

集まったおもちゃは、ボランティアの皆さんが手分けして仕分け作業を行いました。

集まったおもちゃは1万点以上
ボランティアの方が仕分け作業を担当

被災地での活動は?

あそび支援隊の活動第1弾は、4月7日~10日まで陸前高田市と気仙沼市の計4か所で実施。協会が認定しているおもちゃの専門家「おもちゃコンサルタント」がおもちゃを持って避難所に行き、遊ぶ環境を作って一緒に遊びました。

「『モノ』だけ送るのではだめなんです。『モノ』『ヒト』『環境』の3点をつくることが重要です。さらに、地域のリーダーに託すことで、私たちが帰った後でも継続してできるようにすることを目指して活動しました」

手作りおもちゃで遊ぶ子どもたち
あそび支援隊による活動

あそびの中で気持ちを吐き出す

子どもなりに大変な状況だと分かっているので、「今はわがままを言えない」「いい子でいなければ」と感情を抑え込んでいる、と馬場さんは現地で感じたそうです。

ある子どもが積み木をしているのをみて「すごい立派なのを作っているね」と馬場さんが声をかけたら、「頑丈な建物を作らないと津波で流されちゃうんだ」と話したそうです。

また「津波ごっこ」や「地震ごっこ」みたいなことをやる子どもたちもいたそうです。

「子どもは、口に出して自分の辛さを表現できないので、ダメダメって大人の論理で止めるんではなくて、むしろ、遊びの中で気持ちを吐露させることが大切だという風に私たちも思いました」

おもちゃは世代間の交流も生む

避難所で「おもちゃの広場」をやっていると、お年寄りも集まってきました。
初めのうちは子どもたちの遊ぶ姿を微笑ましく眺めていたそうですが「お手玉をやりませんか」と声をかけると、見事な腕前を披露。
会場はそれぞれが得意技を披露するお手玉大会に様変わりし、子どもたちと一緒に大人たちも盛り上がったそうです。

そんな中、あるおばあさんとの出会いがありました。
「『お手玉を作るから布と針を持ってきてくれ』と言われました。布と針は見つかったんですが、中身がなかったんで、東京に戻ってからお送りしました。すると、後日100個ぐらいのお手玉が、東京おもちゃ美術館に届いたんです。『どうしたんですか』とおばあさんに聞いたら『支援を受けたお礼がしたくて作ったので、東京の子どもたちと遊んでほしい』と言われました。被災者は支援されるだけじゃなくて、支援することで元気を取り戻すこともあるんだと知りました」

裁縫をする被災者
子どもも大人も一緒に遊ぶ様子

「あそび支援隊」のその後は?

この「あそび支援隊」の活動は、陸前高田市と気仙沼市の2つの地域を中心に、避難所、保育園、特別養護老人ホーム、お寺などで実施。
計6回、のべ21か所を回り、2011年8月に活動は一区切りを迎えました。
その後も、毎年「いいたて村文化祭」(福島県飯舘村)に参加するなど、支援は続けられ、最終的におもちゃセットを届けたのは100か所以上におよびました。
また、2016年の糸魚川市大規模火災、2017年の九州北部豪雨、2018年の平成30年豪雨(西日本豪雨)や北海道胆振東部地震、2024年の能登半島地震でも支援をするなど、東日本大震災での経験は、その後の災害支援にもつながっています。

「おもちゃ」や「遊び」は心の栄養素!

馬場さんは最後に、「赤ちゃんからお年寄りまで、みな生きていく上では、体の栄養素である食事をとらなきゃいけないんですが、我々は『おもちゃ』とか『遊び』っていうのは、心の栄養素だと考えて活動しています。体の栄養素と同じぐらい大切だと思っています」と話してくれました。

まとめ

今回の取材を通して、被災者の心のケアが大切であることを改めて知ることができました。また、心のケアが、その後の復興に向けた大きな力に変わると確信しました。

【取材協力/画像提供】 
■ 認定NPO法人 芸術と遊び創造協会 

■ 東京おもちゃ美術館(新宿区四谷4-20 四谷ひろば内)

東京おもちゃ美術館内の「赤ちゃん木育ひろば」
東京おもちゃ美術館内の「おもちゃのもり」
東京おもちゃ美術館内の「グッド・トイてんじしつ」